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TarZの日記: 【面白ネタ】宇宙版「物理的キャリアによる情報伝送」、データクリッパー 5

日記 by TarZ

 実用性はよく分からないが、久々に面白い宇宙ネタ。

 先日もデータ転送と伝書バト、どっちが速いか?なんてストーリーがあったが、「通信が遅いならデータを持ち帰ればいいじゃない!」式の発想は、時と場合によっては悪いとも言いきれない。そうはいっても、地球の場合は安価で高速な通信網が整備されていない地域だとか、送るべきデータ量が非常に膨大(VLBIの磁気テープなど)といったわりと限定された問題になる。
 しかし、この問題がもっと深刻な現場がある。

 宇宙、それも外惑星探査のような超遠距離、通信に使えるのが探査機に搭載できる数m程度の小さなアンテナ、電力も限られるような条件では、通信速度はごく低速になる。比較的大型の木星・土星探査機の高利得アンテナで数十~百数十kbps程度、冥王星の向こう側から通信するNew Horizonsにもなると、実に1kbpsを割る。
 これには理論的な限界(シャノンの定理)があるので、より技術が進んだ将来の探査機でも(いくらか改善はあるかもしれないが)本質的なところは解決しない。まあ、巨大なアンテナや潤沢な電力が使えるようにでもなるなら話は別だけど。

 このような制約のもとで、NASA LRO が地球の月に対して行ったような超高解像度マップ製作を未来のエウロパ探査機やタイタン探査機が行おうとすれば、探査機が得るデータ量は膨大なものとなり、データを全て地球に送信するために何年も(もしかすると何十年も)かかってしまうことになる。これは、探査機を木星や土星に飛ばす期間と同等か、それよりも長い。

 そこで、「それだったら、地球近傍までデータを(通信でなく物理的に)運んだほうが早いじゃん」という、一見すると「今日が4/1ならよかったのにぃー」的なアイディアが出てくる。

Data Clippers Set Sail to Enhance Future Planetary Missions

 とりあえず概念をつかむなら、解説画像を見ると手っ取り早い。

 このニュースリリースによれば、ソーラーセイルを使ったデータキャリア(ここでは、昔の高速帆船に準えて Data Clipper と呼んでいる)を、実際に木星・土星付近まで飛ばす。木星・土星で活動している探査機との距離が近いので、両者間の通信速度を大きく上げることができ、Data Clipperは短時間で膨大な観測データを受信することができる。データを受け取ったData Clipperは地球近傍まで戻り、やはり短時間で地球に送信する。
 この工程には数年かかるが、送信すべきデータ量が非常に大きければ通信で送るよりも早い。まさに、伝書鳩で大容量データカードを送るような話である。

 これだけだと、実際に使い物になりそうかどうかよく分からない。わざわざソーラーセイルにする必然性がよく読み取れなかったが、ニュースリリース上では、推進剤が少なくて済むので「軽量で」「長期間使えて」安上がりとある。
 個人的には、ソーラーセイルが惑星間航行で実用的に使えるようになるためには、セイルの面積をイカロスのレベルから質量比で1ケタ以上は上げる必要があるんじゃないかと思っている。とはいえ、面白いアイディアではある。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by 90 (35300) on 2010年09月21日 17時37分 (#1828139) 日記

    NASAが開発した、「シャノンの定理」の限界を打ち破る通信機「データ・クリッパー」

    第二次世界大戦中の1948年にクロード・シャノンが発表した電波による通信速度の理論的上限を決める「シャノンの定理」を打ち破る、画期的な通信手段「データ・クリッパー」をNASAが開発したようです。探査機が新宇宙へ進むにつれ通信速度が低下することは避けられませんが、一体どんな技術なのでしょうか。

    詳細は以下から。

    # 嘘は言ってない。
    # 詳細の前にWikipediaからのコピペが20行。

  • by Anonymous Coward on 2010年09月21日 14時37分 (#1828051)

    比較的大型の木星・土星探査機の高利得アンテナで数十~百数十kbps程度、冥王星の向こう側から通信するNew Horizonsにもなると、実に1kbpsを割る。

    ただの bps だと思ってたんですが…。

    •  さすがに高利得アンテナでbpsレベルしか出ないようだと、観測データのやり取りは厳しいでしょう。地球からのコマンド送信や探査機の状態を知る程度なら問題ないかもしれませんが。

       有名な例だと、木星探査機ガリレオの展開に失敗した例の高利得アンテナが、仕様上は134kbpsのようです。土星探査機カッシーニだともうちょい落ちるでしょう。

      FAQ What's the high-gain antenna (HGA)? [nasa.gov]

      The umbrella-like high gain antenna is located at the top of the spacecraft, and is 4.8 meters (16 feet) in diameter. It was designed to transmit data back to earth at rates of up to 134,000 bits of information per second (the equivalent of about one television picture each minute).

       よく知られているようにガリレオの高利得アンテナは使えなかったので、代わりに低利得アンテナで通信せざるを得ませんでした。これの通信速度が、FAQにあるように最高の条件で160bps、平均で数十bps程度です。これで、圧縮していない画像1枚を送信するのに9時間、圧縮画像で1~2時間とあります。

       月探査機かぐや(SELENE)なんかだと地球にぐっと近いので、通信はMbpsのオーダーですね。本来の観測データのほかに、どうにかハイビジョン動画データを送ることもできたわけです。(これでもいろいろと議論はあったようですが)

      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2010年09月21日 15時25分 (#1828077)

     実際に運ぶのもいいんですが、何個かあげて、地球に近いほうに積極的に転送していくような仕組みにしても効率はあまり変わらないのかな???
     数年オーダーならそういうのもありかな~と思ったんだけど。
    #WWWのようにリンクしていくのだ!

    • by Anonymous Coward

      惑星間に匹敵する遠距離の高速通信は、宇宙機に搭載できる程度の機材同士では荷が重いのでは?
      そうでなくても、中継機はそれぞれの軌道要素で移動し続けるので、相互に通信可能な配置を維持できる期間はあまり長くできず、無駄の多そうなアイデアです。
      太陽系の開拓が進み、広い範囲で高速通信を維持する需要が発生するようになれば、GPS網のように相互に補完できる複数の機材で太陽系全体をカバーする日も来るかもしれませんが。

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私はプログラマです。1040 formに私の職業としてそう書いています -- Ken Thompson

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